わたしが子犬だった頃、あなたはわたしの可笑しな仕草で笑ってくれましたね。
わたしのことを「僕の子」と呼び、
何度も靴を噛んだりクッションをダメにしたにもかかわらず、
わたしはあなたのベスト・フレンドになりました。
わたしが悪いことをすると、いつも指を振りながら「どうして、こんなことをするの?」と聞きました。
でもすぐに許してくれて、仰向けにしてお腹を撫でてくれました。
あなたはものすごく忙しかったから、わたしの躾には思ったより時間がかかってしまったけど、なんとか一緒に頑張りましたね。
ベッドであなたに鼻をすり寄せ、あなたの打ち明け話や胸に秘めた夢に聴き入った夜のこと、わたしは今でも憶えています。
これ以上に幸せな人生はない、と確信していました。
一緒に、公園で長い散歩をしたり、ドライブに行ったり、アイスクリームを買いに寄り道したりしましたね。(「アイスクリームは犬には悪いから」と言って、コーンしかくれなかったけど・・・)
そしてわたしは、あなたが一日の終わりに帰ってくるのを長い日向ぼっこをしながら待っていました。
次第に、あなたはわたしよりも会社や仕事に時間を割くようになり、
人間のパートナーを探す時間も増えていきました。
わたしは辛抱強くあなたを待ち、失恋したり落ち込んだ時は慰め、間違った決断をしても決して文句を言わず、あなたが帰宅した時は大喜びで飛び跳ねました。
あなたが恋に落ちた時も。
彼女(今ではあなたの奥さん)は、犬が好きではなかった・・・
それでもわたしは、わたしたちの家に彼女を迎え入れ、優しく接し、彼女の言うことを聞きました。
あなたの幸せが、わたしの幸せだったから。
やがて、人間の赤ちゃんがやってきて、わたしもあなたと大喜びしました。
わたしはすっかり赤ちゃんのピンク色や匂いに魅了され、わたしも一緒に赤ちゃんのお世話がしたいと思いました。
だけど、彼女とあなたはわたしが赤ちゃんを傷つけるかもしれないと心配して、わたしはほとんどの時間を別の部屋かクレートに追いやられて過ごしました。
わたしがどれほど赤ちゃんを可愛がりたかったことか・・
でも、わたしは「愛の囚人」になってしまったのです。
子供たちが成長し始めると、わたしは彼らの友達になりました。
子供たちは、よちよち歩きでわたしの毛につかまって立とうとしたり、わたしの目を指で突いたり、耳をめくって覗いたり、鼻にキスをしてきました。
わたしは子供たちの全部が大好きで、
子供たちが撫でてくれるのが本当に嬉しかった
(・・・なぜなら、その頃にはもう、あなたは滅多にわたしに触れなかったから)
そして、何かあれば、わたしは命に代えてでもあの子たちを守るつもりでした。
わたしは子供たちのベッドにもぐり込んだり、子供たちの悩み事や胸に秘めた夢に聴き入ったり、一緒にあなたの車が車庫に入ってくる音を待ったりしました。
以前あなたは、誰かに犬を飼っているかどうか聞かれると、財布から写真を取り出して、わたしの話をしていたこともありましたね。
でもここ数年は、あなたは「うん」とだけ答えて話題を変えていました。
わたしは「僕の子」から「ただの犬」になり、
あなたはわたしにかかるあらゆる出費が嫌になっていました。
そして、あなたは別の街で新しい仕事を見つけ、
あなたと彼らとでペット不可のマンションに引っ越すことになりました。
あなたはあなたの「家族」のために正しい決断をしたのでしょうが、
わたしがあなたのたった一人の家族だった時もあったのですよ。
わたしは久しぶりのドライブでワクワクしていました
・・・保健所に着くまでは
そこには犬や猫、そして恐怖と絶望の臭いが漂っていました。
あなたは書類に記入すると、
「この子にいい家庭を見つけてくださいね」と言いました。
施設の人たちは、肩をすくめ、あなたを微妙な表情で見ていました。
彼らには分かっていたのです。
たとえ血統書付きでも、もう若くない成犬が直面する現実を。
「パパ、だめだよ!ボクの犬を連れて行かせないで!」
わたしにしがみつき叫ぶ息子の指を、あなたは首輪から離させました。
わたしはあの子が心配です。
そして、友情、忠誠心、愛、責任、そして命の大切さについて、たった今あなたがあなたの息子に教えたことが。。。
あなたは、わたしの頭を軽くたたいてさよならを伝えると、
わたしと目も合わせず、首輪とリードを持ち帰ることを丁重に断りました。
あなたが締め切りに追われていたように、
今度はわたし自身にその締め切り期限ができたのです。
あなたが去った後、優しい二人の女性は、引っ越しのことは何ヶ月も前から分かっていたはずなのに、この子に新しい家を見つけようとはしなかったのね、と話していました。
彼女たちは首を横に振りながら言いました。
「どうして、こんなことができるのかしら?」
施設の人たちは忙しい中、できる限り親切にしてくれました。
もちろんご飯は与えてくれましたが、私はもうずっと前から食欲を無くしていました。
最初は誰かが近くを通るたびに、檻の前に走り寄りました。
気が変わったあなたが迎えにきたのだと願いながら…
これは全部悪い夢だったのだと願いながら…
そうでなければ、せめてわたしを気にかけ、助けてくれる誰かじゃないかと願いながら…
でも、自分の運命を知らずにはしゃぐ無邪気な子犬たちには叶わないと悟ったとき、わたしは檻の片隅に引っ込みました。
そして、ただ待ちました。
その日の終わりに、施設の女性が迎えにくる足音が聞こえました。
わたしは彼女について通路を静かに歩き、別の部屋に向かいました。
静寂に包まれた部屋です。
彼女はわたしを台に乗せると、わたしの耳を撫でながら、心配しないでいいのよ、と言いました。
わたしの心臓はこれから何が起こるのかとドクドクと波打ちましたが、同時に、安堵のようなものも感じていました。
愛の囚人に、その期日がきたのです。
元々の性格のせいか、わたしは自分のことより、彼女のことが心配でした。
彼女が背負っている耐えがたい心の重荷、、わたしにはそれが分かるのです。
あなたの気持ちもすべて分かっていたように。
優しくわたしの前脚に止血帯を巻いたとき、彼女の頬には涙が伝っていました。
もう何年も前にあなたを慰めたのと同じように、わたしは彼女の手を舐めました。
彼女は慣れた手つきで注射の針を私の静脈に入れました。
チクッとして冷たい液体が体に流れるのを感じると、わたしは眠るように横になり、彼女の目を見つめながらかすかな声を漏らしました。
「どうして、こんなことを…?」
おそらく、彼女にはわたしの言っていることが分かったのでしょう、
彼女は「本当にごめんなさい」と言いました。
わたしを抱きしめると、彼女は間に合わせるように急いで説明してくれました。
わたしがないがしろにされたり、虐待や飼育放棄されたり、自分一人で生きていかないといけないようなことのない、今よりいい場所に行くのを見届けるのが、彼女の仕事なのだと。
そこは、この地上とは全然違う愛と光に満ちた場所なのだと。
わたしは最後の力を振り絞ると、彼女に尻尾を当てて伝えようとしました。
さっきの「どうして、こんなことを…?」は彼女に向けたものではないということを。
あれは、わたしの最愛のご主人様、
あなたに向けた言葉でした。
わたしは最後の時もあなたを想っていたのです。
わたしはこれからも永遠にあなたのことを想い、待っています。
あなたが人生で出逢う全ての人が、これからもわたしと同じくらい、あなたに誠実でいてくれますように。
和訳:きなこ先生の飼い主 絵:ひろ衛
著者からのコメント
私がこの「どうして?」を書いて涙したように、もしあなたがこれを読んで涙したなら、それはこの作品が、アメリカとカナダのアニマルシェルターで毎年死んでいる何百万もの「元」ペットたちの物語をまとめたものだからです。どうぞ、あなたのウェブサイトや、ニュースレター、保護施設や病院の掲示板などで、この記事を教育のために活用してください。
そして多くの人に伝えてください。
・ペットを家族に迎えるということは、人生において重要な決断だということ。
・動物は、愛され大切にお世話をされるべき価値ある存在だということ。
・あなたのペットにふさわしい里親を見つけるのはあなたの責任であり、地元の動物愛護団体などが助言をしてくれること。
・そしてすべての命は、かけがえがないのだということ。
殺処分を止め、捨てられる動物を防ぐための避妊・去勢手術を促進するために、あなたにできることをしてください。
そしてみんなにこの話を伝えてください。読んだ人を悲しませるためではなく、たとえ1匹だとしても、捨てられるペットを救うために。
忘れずにいてください・・・動物たちは無条件に愛してくれることを。
ぜひシェアしてください🐶
この日本語訳と水彩画は、この物語と一緒に掲載する非営利の教育目的に限り、個人や団体のSNSやHP、回覧板やワークショップなどでどなたでもご自由に掲載いただけます。ぜひこの物語をシェアしてください。
その際はお手数ですが著作権を明記していただけますようお願い申し上げます。
『どうして?』
作:ジム・ウィリス
訳:きなこ先生の飼い主
絵:ひろ衛
引用元:https://kinakodog.com/howcouldyou_cover/
(文章やイラストのシンクロや動画利用に関してはご連絡ください。事前許諾が必要です。紙芝居などで大きな印刷用画像データが欲しい方もご連絡ください。)
『どうして?』動画版
声優さんが主人公の声を演じ、絵本の読み聞かせのような動画になっています。
どうぞ、字幕をオンにして見てください。
この絵本動画は授業やワークショップなど、どなたでもYouTube上で放映していただけます(事前に許可を取る必要はありません。ご自由にどうぞ!)
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